よくたべよくねてよくあそぶ

一難去って、また一難 ぶっちゃけありえない!!(プリキュア)と思いながら労働している大人のオタク

夜への長い旅路より、少し明るい道を私も歩いている

日舞台「夜への長い旅路」を観に行った。

あらすじを読んだ時から重苦しい感じの話だということは予想がついていたけど、思っていたよりもずっと苦しかった。それは平凡に生きてきた私にも充分に理解できる部分があったからだ。

 

 

※以下ネタバレありです※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母親、父親、長男、次男。愛していないわけではないけど、ずっと言えない嫉妬や憎しみや軽蔑のような気持ちをそれぞれ持っている。そんなもの家族なんだからないのが普通。ないのが正しい家庭。

でもそんなことないよね。ないわけない。

この舞台で描かれた1日は、愛しているから?正しい家庭として?家族には言えなかったことが全部炙り出される、この言い方が合っているのか分からないけど"地獄のような1日"だった。

 

難しい話だと思っていたし寝不足だったから途中ウトウトしちゃったらどうしよう…と思ってたけど、その地獄さにギンギンに目が覚めてしまったな。

 

基本的に次男エドマンド以外はわりとみんな罪の意識がある。家族間のどす黒い感情の吐露はかなりキツかったけど、特に私に効いたのは長男ジェイミーの告白だった。

 

幼い頃の故意ではない?過ちからずっと母親の愛情を受けられなかった(と感じている)長男ジェイミーは、深く愛している弟に対してもどこか、そのコンプレックスから、陥れたい・足を引っ張りたいと感じてしまう自覚がずっとあったと弟本人に伝えてしまう。

泥酔して朦朧とした意識の中、言ってはいけないことが乱暴に口をつき、相手を傷つけたことにハッとし、愛しているからなんだわかってくれと繰り返すシーンである。

文字にするとなんとも都合が良くて腹立たしく感じるが、これが舞台で観ているととにかく苦しい。

アイツは親の期待の星、お気に入り。兄弟をもつ人は一度は持ったことがある感情じゃないだろうか。でもたった1人の兄弟だ。愛しているのもまた嘘じゃない。嘘じゃないのに、どうしても拭えないしつこく汚い感情がある。ただ拗ねているだけと言えばそうだが、そんな可愛いものではなく、それは頭にこびりついてずっと離れない。呪いだ。

父ジェームズが何度も言った、ママは"あの呪い"のせいでこうなった。母メアリーだけじゃない。家族それぞれに自分だけの呪いがあった。ジェームズの言う通り、全て呪いのせいなのかもしれない。

 

きっとその呪いは私にもあるし、私の家族にもある。

私はお兄ちゃんとすごく仲がいい。毎日しょうもないLINEをするし、家でもよく話す。でもお互いがわりと大人になってから初めて兄に言われたことがある。

「父さんは俺のことが嫌いなんだ。お前のことしか大事じゃない」

 

兄は私が生まれる前の幼い時、理不尽な理由で父に顔を打たれたことがあった。大事に描いた絵を「なんだこれ、変な絵だな」と足蹴にされたことがあった。お前は大学なんか行かんでいい、学費がもったいない、と大学への進学を許してくれなかった。父と口喧嘩になるたび、誰のおかげで飯が食えてるのかわかってるのか、と詰められた。

 

私は小さい時から叱られても、打たれたことはないし、父が兄にそんなふうに言ったことも知らず、大学に進学させてもらえた。(特に父からは何も言われなかった)反抗期に多少文句を垂れても、そんなにキツく叱られることはなかった。

 

だから兄からそれを聞いた時、胸が苦しくてたまらなかった。ちょっとした喧嘩はしてもなんやかんや仲良くしてくれている兄が、私を憎んでも仕方ないなとも思った。エドマンドもこんな気持ちだったのかもしれない。兄は私のことを陥れようなんてもちろん言わなかったけど、でもきっと兄にも呪いがかかっている。私は父のお気に入り。と言う呪い。

 

兄と父が口論になった時、父がぽろっと言ったことを思い出した。

「お前、俺のことずっと嫌いだろ。軽蔑してるんだろ」

なんで父がそう思うのか私にはわからない。父にも何かの呪いがかかっているんだろう。悲しい呪いだけど。

びっくりするのが、ジェームズとジェイミーのシーンで全く同じような掛け合いがある。

重苦しい舞台の上の光景は私の家の灰色な思い出とずっと遠くで繋がって、気持ちがピンと張り詰めて目が離せなかった。

 

メアリーのいう正しい家庭ってなんなんだろうか。いや、言いたいことはわかるけど。こういう言えない感情がなくて、心から愛し合う仲の良い家族。私の家族は正しくないかもしれない。でも正しくない家庭でも終わることはできない。ずっと続くのだ。

 

この作品をかいたユージン・オニールは、当時の奥さんにこの本は公開するなと伝えたらしい。正しくない家族の呪いは自分の知らないところで葬りたかったのか。はたまたそれは裏返しだったのか。

 

呪いを解くのは難しい。しかし、作中では永遠には続かないであろう霧が何度もえがかれる。永遠には続かない、いつかは晴れるのだとオニールも願っていたのだろうか。少なくとも私はそう願うほかない。