よくたべよくねてよくあそぶ

一難去って、また一難 ぶっちゃけありえない!!(プリキュア)と思いながら労働している大人のオタク

「人間に向いてない」

黒澤いづみさん著「人間に向いてない」のネタバレあり感想です

タイトルにわたしの読む本では?!?!となって手に取ったんですけど、メフィスト賞という賞を受賞した作品だそうです。無知すぎて賞の存在自体を知らなかったのだけど、面白ければジャンルは割となんでもありな賞らしい(語弊)こないだ読んだ森博嗣さんもこの賞を受賞されたみたいでへ〜〜!となった。


展開がめちゃくちゃ気になるから苦じゃなくさくっと読めてすごく読みやすかったし、後味も悪くなかったので嬉しかったです(小並感)わりと賛否両論みたいだけど、わたしは楽しく読めたし好きです。人に勧めたい。


社不って今はわりと軽い気持ちで使われるようになった社会不適合者の略語だけど、まさに人間に向いてない社不たちがなんの因果か人間じゃないきもい謎の生命体になってしまうというお話。こわい。
その生命体の姿かたちの描写が言葉だけなのに想像してもほんとに全部きもくて、ウゲ〜っとなる。よくこんな気持ち悪い姿かたち思いつくな?!(褒めてる)
とにかくその生命体にまつわる描写がグロいんだけど、ほんと「人間」じゃなくなったことで、良くも悪くもめちゃくちゃフラットになって、みんなの真意が暴かれてしまう。そして人間扱いしなくて良くなって正当にゴミ扱いすることを許された時の周りや家族の描写の方が物凄くグロい。

公的に人権がなくなった、家族とも呼べない塊を前にした時に家族はどうするのか。
もともと社不だった子供を疎んでた親はこれ幸いと合法で処分する。どんな塊でも知らない生き物と割り切れない親はそれと共に生きる方法を探す。

主人公の美晴は息子である優一に対して何故こうなってしまったのか…と常に考えていた。優一は成人してからもずっと引きこもっている。優一のためにいろんなことをしたつもりなのに、人並みにして欲しかっただけなのに…自分の母親に「私の何が間違ってたの?」と弱音や愚痴をこぼすこともあった。
美晴自身に悪意があったわけではない、ただ読者からはその経緯を追うだけでも美晴が「毒親」といわれるカテゴリだと感じずにはいられない。ただ、少し不思議に思ったのはそんな美晴の母親だ。

優一に感情移入しながら読んでいた私としては、優一の愚痴をきく美晴の母親に対して、めちゃくちゃ嫌なやつやん…と思っていた。それこそ「毒婆」じゃん、って思ったし(そんな言葉ある???)
なんだけど優一のことを完璧に見放した旦那を置いて実家に戻った時、醜い姿になった優一も、その優一と生きていく覚悟をした美晴も、まるごと受け入れてくれる。
そして母と暮らす穏やかな生活の中で、どんな時も娘の自分を受け入れ背中を押してくれる母に、母親としての自分はいったい優一に何をしてあげられたのか?とようやく美晴が気づくことになる。この暮らしの描写を読むと、美晴の母親があたえてくれる絶対的な無償の愛にとても泣けてくる。

前半で優一に対しての愚痴をこぼす美晴に賛同し、優一を攻めるようにもとれたあの言動も、美晴の辛い気持ちによりそう一心だったのかもしれない…とここまで読んでようやく思った。優一の気持ちで作品を追っていた私からすると、自分の敵である美晴の味方=敵だった。しかしこんな姿になってから初めて味方なのか?と感じてきた美晴の1番の味方である祖母は、もう大きな味方になっていた。

こう書くと美晴の母親が100点の母親みたいに思えるけど、実際その母親のもとに育った美晴は優一にとっては「良くない母親」だった。そう思うと、美晴の育てられ方は100点とは言えないはずだ。母親の愛がいつ届くかとかもう分からんし、正解とかないと思うけど、遅くても美晴にはこのタイミングで気づくことができたし、それは絶対母親のおかげなんだなと思った。


ストーリーの終盤、優一がすんなり絆されずどうしても自分の中の憎しみを見捨てられなくて美晴を殺しかけるシーンもすごく良かった。20年以上の憎しみがそんな簡単に処理できてたまるか、という納得感があったし、あの時殺しかけなければどこかで綻びが出てやっぱり美晴のことを許せなくて向き合うことをやめてしまう気がする。

めちゃくちゃ脱線するけど、負の感情を飲み込むのって辛かった時の自分を見放すみたいに思えて気後れすることがある。優一もそうだったのかな?って勝手に感じたりした。私がそういう気持ちになった時にいつも思い出すのがBUMP OF CHICKENのrayという曲だ。

あまり泣かなくなっても 靴を新しくしても
大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない

これは悲しみの感情の方を歌ってるのだと思うけど、なんか負の感情の全てにおいても言えるなあって思って、めちゃくちゃ明るい曲調なんだけどウウッてなる。自分でもその執念とか辛さとかを手放してしまうというか、飲み込んでしまうことが怖いというか。本当にいいの?ってなるんだけど、前に進んでもその気持ちを蔑ろにしたことにはならないよっていう…なんか優しい歌だよなあほんとに…

話を戻して、殺されかけた美晴の態度を見て、今までの敵とは違う存在の美晴を知ることができたのも優一にとって大きかったように思う。
家族間の重い話って結構辛いしグロいけど、この作品の結末は私的には大団円である。お父さんの処遇も含めて。

こないだTwitterでバズってたツイートに「無償で愛されているのは子供よりも親の方だ」とあった。異形になってしまった子供たちも少なからず親と和解出来る未来を期待していたかもしれないしあながち間違いじゃないのかも。少なくとも親から子供への無償の愛って当たり前じゃないなとこの作品を読むと感じてしまう。


人を育てたことなんてないし、子供を産み育てる予定も全然ないけれど、私はちゃんと我が子の1番の味方になれるのだろうか…と不安になると同時に、親となる前に読んでおくことができてよかったと思った。

あと私はギャルが好きなので津森さんがめっちゃ好き。らぶ。


ちなみに自分語りなんだけど、私は私のお母さんのことが大好きだ。お母さんは本当に家族への愛に溢れているし、おっちょこちょいなところはあるけど誰からも愛されそうだし愛されていてほしいと思える存在である。尊敬する。
けど、そんな素敵なお母さんに育てられた私自身は人をうまく?育てられる自信が無い。なんでだろう、お母さんには死ぬまで長生きしてほしい(?)くらい感謝してるから、お母さんの子育ては絶対に否定したくないけど、私が母のような人間に育ったかは正直自信がない。
でも、繰り返しになるがお母さんの子育てが否定されるなんて私が誰より悲しいから、そんなふうに思われないように頑張りたいなとは思う。

お母さん〜!会社行くの嫌だけど頑張って真っ当に働いて奨学金返すからね!!!!


おしまい